院長の小話

2010年12月21日No.52 ドライアイ その1 涙のお話

 診察をしていると、「目が乾く」と訴える方がとても多いです。
 コンタクトレンズをしている方はもちろん、コンタクトレンズをしていない方にも多く見られます。年齢も若い方から年配の方まで、男女の性差もあまりないように思えます。厳密には、目が乾くと即ドライアイではないですが、乾きがある人はドライアイか、ドライアイに近い状態であることに変わりはなく、何らかの対処をしていくべきと考えます。

 このようにとても一般的なドライアイという病気について、数回にわたって涙の話から、検査法、コンタクトレンズとの関係まで、ご紹介していこうと思います

1.涙とは?

涙の三層構造

「涙は何でできているか」と「涙の働き」について説明します。
 涙は98.2%が水分でできており、大部分が水です。その他はナトリウムやカリウムなどの電解質とライソゾームやラクトフェリンと呼ばれる蛋白質も含んでおり、これらは細菌の増殖を抑える抗菌物質としての働きがあります。さらに、サイトカインや免疫グロブリンと呼ばれる細胞間で情報をやりとりする物質も含まれており、単なる水とは違います。
 また構造は、3層構造になっており、表面から油層、水層、粘液層となっております(最近の研究では、水層と粘液層の厳密な境界はない2層構造モデルが有力です)。表面のうすい油の層は涙の蒸発を防ぐ重要な働きをもっており、この油分が少なくなると、蒸発が盛んになり、涙が減り目が乾きます。
涙の働きは、大きく分けて5つです。

1.目の乾燥を防ぐ
2.平滑(なめらかな)な表面を維持する
3.感染予防
4.酸素の供給
5.傷の治療を助ける

 眼球には皮膚がありません。当たり前ですが、皮膚は透明ではないので、皮膚があると見えなくなるからです。乾きに弱いために、乾燥を防ぐ水分は必要です。その他、視力を保つためにはザラザラのレンズではダメです。黒目や白目も傷がつくことがありますが、治癒するためには水分や先の情報をやりとりする物質が必要になってきます。

2.涙の一生

涙はどこから出て、どこへ行くのでしょう。
 涙は上まぶたの耳寄りにある「主涙腺」というところで涙の主成分である涙液が作られ水層になります。ちなみに原料は「血液」です。血液をろ過して涙を作ります。さらに、結膜(白目)の表面から粘液層になるムチンという粘液と、まぶたのマイボーム腺から油層を作る油分が作られます。それらが合わさって「涙」になります。
 涙の作られる量は1分間に1-2マイクロリットル(1マイクロリットル=1ccの1/1000)というわずかな量です。目の表面に広がっている涙の量は5-10マイクロリットルですので、約5分ですべてが入れ替わる計算になります。
その後、涙は蒸発していく分と、涙点というまぶたの目頭の上下にある小さな穴に吸い込まれます。そして、涙小管、涙嚢、鼻涙管という管と袋を経由して鼻の奥に流れていきます。ちょうど、涙点は排水口のような働きをしています。

3.涙はどういう時に出るの?

 まず、悲しい時やうれしい時に出ることを思い出します。それだけではなく、目にゴミが入った時や、あくびをした時にも出ます。目にゴミが入った時に涙が出るのは、ゴミを流そうとする目的がありますが、悲しい時やうれしい時に、なぜ涙が出るのかは、はっきりとはわかっておりません。もちろん、自律神経が刺激して涙が出る仕組みはわかっていますが、なぜ涙が出るのか、そんな必要があるのかは、とても不思議です。諸説ありますが、感情の高まりを涙を流すことによって抑える働きがあるようです。体を守る反応で、泣き続けることができないのは、いつかは感情が安定することの表れなのかもしれません。ちなみに、あくびは顔の筋肉が大きく動くのでその影響で涙が出てしまうのが理由で、目的はありません。笑いすぎると涙が出るのも同じ理由ですね。
 そして、そのような出来事の時以外にも涙は出ています。基礎分泌といって、実は、涙は常に出続けているのです。先に紹介した、涙の働きを行うために、起きている時はもちろん、寝ている時も(量は減りますが)涙は出ております。量が少ないので、バランスよく排出され、あふれ出ることがないので、出ていることを意識することはありません。

4.涙に関する病気

 涙に関係する病気を理解する場合、水道に例えるとわかりやすいです。下のイラストのように目に水道の蛇口と、排水口をつけた状態をイメージしてください。正常は、蛇口から適量の水が出て、目をうるおし、きちんと排水され、バランスが取れている状態です。
 異常として、排水口がつまると、涙があふれます。これが流涙症(りゅうるいしょう)という、涙があふれる病気です。
そして、水道の蛇口から水が少ししか出てこないか、出てきてもすぐになくなってしまうのが、ドライアイという病気です。
 次の小話で詳しく説明する予定です。

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