院長の小話

2011年05月20日No.57 ドライアイとハードコンタクトレンズ

 ドライアイについての第4回目です。今回はハードレンズとドライアイの関係について、3-9ステイニングという特徴的な症状と、ドライアイの方がハードレンズを装用する際に注意する点について書こうと思います。

3-9ステイニング

症状

 3-9ステイニングとはハードコンタクトレンズを装用してる方に起こる、角膜や結膜の傷のことで、充血をともなう症状です。特徴として、黒目の横方向に充血が起こり、角膜(黒目)を時計に例えると、3時と9時の部分に当たるため3-9ステイニングと呼ばれております。軽いものまで含めるとハードレンズ装用者の半分以上に発生しているという報告もあります。

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原因

 原因にドライアイがとても深く関係しておりますので、少し詳しく説明したいと思います。

 その前に、ハードレンズと涙液交換について説明します。
 ハードレンズは角膜の上に載せますが、厳密には角膜の涙の上に浮かんでいる状態です。適量の涙を挟むことで外れたり、角膜の下の方へズレ落ちないようになっています。以前の小話で書いたように、涙の働きの一つに酸素を角膜へ与える効果があります。涙に溶けた酸素が血管のない角膜に酸素を運んだり、角膜の細胞から出た炭酸ガスを吸収したりする効果は角膜の正常な営みにとても大切です。それを可能にするために、ハードレンズはまばたきの際に上下に動くことで、レンズ下の涙を交換しています。およそ10-20%の涙が交換されるといわれております。
 しかしながら、交換されるということは、涙の移動が起こります。移動が起こると、涙の安定が害されてしまいます。具体的には、涙の少ない薄い部分ができてしまいます。涙の少ない部分は傷の原因になるばかりではなく、傷の治癒を遅らせてしまいます。涙が海の波のように多くなったり少なくなったり、あるいは干潮の時のように海の底が露出してしまっているイメージがわかりやすいと思います。
 ちょうど3-9ステイニングで問題となる黒目の横の部分は、このような涙の変動や、欠乏が最も起こりやすいため、傷ができてしまいます。

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 さらに、この部分には「瞼裂斑」というタコのような盛り上がりができることがあり、涙が覆いきれなくなったり、涙の安定を妨げる原因を強め、さらに症状が悪化します。
 また、目を開けているときに黒目の横の部分が空気に触れますのでこの部分からの蒸発も加わり、さらに乾きやすくなるのも原因ですので、まばたきの減ってしまうパソコンの作業(VDT作業)などでは注意が必要です。


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 涙以外の原因として、レンズの機械的な刺激も考えられます。レンズのエッジといって縁の部分が直接当たることで傷になることもありますので、そのような場合はレンズの変更や調整が必要になります。もちろん、涙の問題とレンズの問題の両方の場合もあります。


ドライアイの方がハードレンズを装用する際に注意する点

1.適切なフィッティング

 フィッテングとは、レンズの形と目のカーブを合わせることです。一見どれも同じに見えるレンズですが、厳密にはレンズにはサイズ(レンズ径)や度数の他にベースカーブというカーブの強さに違いがあります。ちょうどワイシャツの首回りと裄丈を合わせるようにレンズを作成する時は、その人に合わせてジャストフィットのものを探します。ソフトレンズは柔らかいレンズのため、多くの方の目に合いますので、服のSサイズやLサイズのように2種類程度しか形に種類はありません。ある程度伸び縮みして体に合うシャツのような感じで、サイズをそれ程気にしなくても良いのと同じです。それに対してハードレンズは、レンズが硬いので、厳密に目に形を合わせなければならず、ゆとりのない鎧やワイシャツのようなイメージです。

(1)ベースカーブ

 角膜の表面はカーブしており人によってその強さに違いがあります。そのカーブにレンズのカーブ(ベースカーブ)を合わせてレンズを調整するのがフィッティングで最も重要です。レンズのカーブが強い(スティープ)と中心が浮いて周辺が接触して動きが悪くなり涙液の交換に悪影響がでます。逆にカーブが弱い(フラット)レンズだと目に対して平らに近いので動きすぎる傾向や、まぶたの裏側に当たり異物感が強くでてしまいます。

(2)レンズ径の変更

 部分的な乾燥が問題になっている場合はレンズのサイズを小さくすると涙の吸い上げる量や、場所が変わりますので、改善する可能性があります。ただし下方固着など他の原因がある時はサイズを大きくする場合もあります。

(3)周辺部のデザインの変更

 レンズエッジにより機械的な刺激が問題となっている場合は、エッジの形状の異なるレンズに変更すると、改善を得られることもあります。

2.レンズの材質の変更

 一般に酸素透過性の高い素材は汚れやすいといわれており、汚れが付着すると涙液の安定感が悪くなりドライアイの症状が悪化します。そのような場合は、酸素透過性の低いレンズや、あるいは表面処理をして汚れにくいレンズへ変更することがあります。

3.レンズの洗浄方法

 レンズが汚れると、涙液の状態が悪化します。涙液の状態が悪化すると逆にレンズが汚れやすくなります。このような悪循環を断ち切るためには、少しでも汚れを減らすことが重要です。例えば、今までつけおき洗浄で汚れるようなら、こすり洗いを行うようにするのが良いと思います。あるいは研磨剤入りの洗浄液での洗浄を行います。ただし、表面処理をしていてできないレンズもあるので注意が必要です。

4.人工涙液、ヒアルロン酸点眼
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 涙の量が問題になっている場合は、量を補うのに最も効果があるのが点眼薬です。ヒアルロン酸が配合されている点眼薬が一般的です。ヒアルロン酸単独の点眼で、涙液を吸収しさらに乾燥することがありますので、そのような場合は、人工涙液の点眼を併用すると効果的です。


5.ソフトコンタクトレンズへ変更

 充血がひどい場合や、傷の改善がみられない場合は、ソフトレンズに変更するのも一つの解決策だと思います。しかしながら、ドライアイという目の状態が治るわけではないので、ソフトレンズ特有の乾きや症状が出る可能性があるため、乾きにくいレンズの選択と細心の注意をしながらの装用になります。

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