2012年11月20日no.75 ドライアイについて(その6)「ドライアイの点眼薬・ムコスタ点眼液」
前回の小話でドライアイの新しい治療薬としてジクアスを説明しました。約15年以上もドライアイの新しい治療薬が発売されなかったことから考えると、とても大きな出来事でした。ドライアイという病気の特性上、なかなか完治が難しいため、より効果のある薬の開発は、800万人いるといわれているドライアイの患者さんにとって明るい大きなニュースでした。そして、今年の1月に、さらに新しい点眼薬が発売になりました。それは、ムコスタ点眼液です。
1.胃薬ムコスタ
新しい点眼薬の名前が「ムコスタ」と聞いて、私は最初、聞き間違えたかと思いました。なぜなら、ムコスタと言えば、ほとんどの医者は「胃薬」を思い浮かべるからです。ドライアイにまったく関係ないのでは、と思いました。ムコスタは、胃粘膜保護の有名なお薬で、胃潰瘍の治療や、胃壁を荒らしやすい鎮痛剤や抗生物質と併用して内服することが多いです。胃は食べたものを胃酸で消化しますが、不思議なことに胃自身は消化されません。焼肉屋さんで動物の消化管であるホルモンを食べてホルモンは消化されるのに、同じ消化管である自分の胃が消化されないのは、胃粘膜で作られる粘液で胃酸をブロックして胃自身を消化しないようにしているからです。この粘液も、前回の小話で説明したムチンでできており、涙を保持するのに重要なムチンと同じです。ここで、ドライアイとつながります。胃薬ムコスタは、胃の粘膜に働き、目薬ムコスタは、結膜に働き、どちらも粘液であるムチンの産生を改善することで、病気を治すのです。
2.ムコスタと杯細胞(ゴブレット細胞)
目に話を戻します。涙の最も内側の層である粘液層はムチンでできています(前回の小話参照)。ムチンは、結膜の杯細胞(ゴブレット細胞)で作られており、この細胞に働きかけてムチンの産生量を増やすのがジクアス点眼液です。これに対して、ムコスタ点眼液はジクアス同様にムチンの産生量を増やす働きもありますが、それだけではなく、杯細胞の数を増やす働きも報告されております。杯細胞が増えれば、ムチンの産生量も増えることが予想され、ドライアイの改善への有効性が示唆されます。
3.ムコスタ点眼液
このムコスタ点眼液は、他の点眼液と異なる点がいくつかあります。まず、点眼回数が1日4回で、ヒアルロン酸やジクアスの6回と比べて少ない回数となっております。また、薬の名前はムコスタ点眼液UD2%ですが、このUDは、ユニットドーズという意味で、1回使いきりタイプとなっております。防腐剤が添加されておりませんので、ソフトコンタクトレンズの上からでも点眼が可能です。他の異なる点は、薬の液が白色の濁った液である点です。まるで牛乳のようです。私自身、試しにさしてみたところ、直後は視界に霧がかかったように見えました。数分ですので支障はないですが、車の運転などには注意が必要です。点眼した直後は白い液が瞼に広がり、かなり人を驚かせる見た目になりますので、この点も注意が必要です。
さらに、苦味があり、臨床試験では15%位の人が感じたそうです。私の感想としては、にがうり(ゴーヤ)や、苦めのコーヒーのような印象で、点眼してから1時間くらいしてからも苦くなることもあり、薬の持続時間が長くて驚きました。点眼液が目頭の涙点を通り鼻に抜けて口の中に入ってきますので、点眼直後に鼻の付け根を押さえると多少の予防効果があるかもしれません。
肝心のジクアスとムコスタの効果ですが、現在のところ患者さんの改善度と感想を蓄積しているところです。お薬なので相性もあり、どのようなドライアイに最も適しているか、他の薬剤と併用した場合はどうか、など留意すべき点に注意しながら、慎重に評価をしなければならず、もう少し時間がかかりそうですね。
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