院長の小話

2013年11月20日no.87 近視について(その4)近視の疫学

 日本人のイメージは「首からカメラをさげて、めがねをかけている」というのは昔の話ですが、めがねをかけた日本人が多いのは今も昔も当たっているかもしれません。私も妻もコンタクトレンズを愛用しており、そのような「かくれめがね」の方を含めると、相当数の日本人が近視(または屈折異常)であることは、想像できます。では、実際はどうなのでしょう。本当に多いのでしょうか。

 また別な話題として、親が近視だと子も近視になるのでしょうか?私の両親はともに正視で近視ではありません。しかし、このような質問を多く受けるということは、親子ともに近視の場合が多いからではないでしょうか?今回から数回にわたって、近視の人の数や特徴を分析した報告を紹介したいと思います。

(1)近視の割合

 日本人の近視の割合は、41.8%という報告があります。10人に約4人ですね。これは、岐阜県多治見市で2000年から2001年の間に行われた多治見スタディで、-0.5Dよりも強い近視の人の割合(有病率)で報告されております。特に東アジアで近視が多いことは世界的に報告されており、あながちめがねのイメージは間違っていないようです。統計学的にも東アジア人であることは、近視であることと有意に関連があるとする報告もあります。

 また近視の頻度は最近増加している印象がありますが、アメリカでの報告で1971年-1972年の近視の割合が25%だったものが、1999年-2004年の調査では41.6%に変化したことからも、日本でも同様に増えていることが示唆されます。

(2)近視の遺伝

 親が近視の場合は、子も近視になるのでしょうか。はたして近視は遺伝するのでしょうか?統計学的には「両親のうち1人以上が近視」の場合に、子が近視になることは有意に関連があると報告されております。ただし、この結果は、近視が遺伝するということを直接的に示しているわけではありません。実際のところ、両親ともに近視が強くても、子がまったく近視でない場合もありますし、また、両親が近視ではないのに、子だけが近視のこともあります。また話題が変わりますが、似たようなお話で、ゲームをたくさんしても、まったく近視にならない子がいたり、そのようなことにいくら気をつけても近視になる子がいるのも事実です。このようなことは、生まれてからのことには左右されない、生まれ持った「先天的に近視になる何か」があることを示唆させます(遺伝的因子)。近視の遺伝子はいくつか発見されているようですが、単一の遺伝子では近視の発生は説明できず、多くの遺伝子によるようです(多因子遺伝)。

 では、遺伝だけで近視を説明できるかというと、そうでもないようです。それは、遺伝子がまったく同じ一卵性双生児にも近視度に差が出ることから、近視は遺伝的な要因だけではなく、その後の環境によっても影響を受けると考えられています。次回の小話では、このような近視の環境因子について説明しようと思います。

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