院長の小話

2007年10月23日No.14 ネコ・ヒト・ウマの瞳孔の話(その2)

前回の小話でネコの眼について書きましたが、今回はヒトです。

よく興奮している時に、黒目が大きくなるといいますが、ヒトの瞳孔は交感神経(活動している時によく働く神経)により大きくなり、副交感神経(リラックスしている時によく働く神経)により小さくなります。では、どのようなときに変化するかといいますと

瞳孔が小さくなる
  • まわりが明るい時
  • 近くを見るとき
  • サリンなどの薬物中毒
  • 点眼薬によって(急性緑内障発作時に使うサンピロなど)
  • 脳幹疾患や神経疾患
  • 生理的(ヒトの瞳孔は新生児で小さく、10代後半まで大きくなりその後年齢とともに小さくなっていきます)

瞳孔が大きくなる
  • まわりが暗い時
  • ボツリヌス中毒(飯寿司:いずしであたった時ですね)
  • 点眼薬によって(眼底検査をする時に使うミドリンP、偽近視の治療薬のミドリンM、子供さんの眼鏡を処方する時に使うサイプレジンなど)
  • 脳幹疾患や神経疾患
  • 生理的(10代後半で最大になりますので、異常がなくても大きい場合もあります)
  • 生命が終わるとき

いくつか取り上げてみましょう。

眼に入る光の量を調節するために瞳孔の大きさが変わります。これはネコと同じですね。
近くを見るとき瞳孔が小さくなります。これはものをよく見るためにたいへんうまくできた仕組みなのですので、少し詳しく説明します。

被写界深度と収差 (少し難しいお話です)

先生、うちの子、見にくいときに眼を細めて見ているんです。
感じが悪いのでやめさせたいんです。

テレホンカード

この子供さんは眼を細めることで、被写界深度(ひしゃかいしんど)が深くなりピントの合う範囲が広くなり遠くが少しだけクッキリ見えているので無意識にしてしまうのだと考えられます。

昔、テレホンカードには使った時に穴があきましたが、あの穴や、時計の革ベルトの穴を通してみると、遠くが少しクッキリ見えると思います(厚紙に小さな穴でもいいです)。これは、気のせいではありません。


カメラも絞りを絞るとピントの合う範囲が広くなります(下の写真)。被写界深度は絞りの大きさと物までの距離によって変化し、物までの距離が小さいと浅くなります(ピントが合いにくくなります)。

絞りを開く
被写界深度が浅い
ピントの合う範囲が狭い
近く

絞りを絞る
被写界深度が深い
ピントの合う範囲が広い
遠く


先のような子供さんの場合は、近視などの屈折異常の可能性がありますので早めに眼科を受診してください。小さな穴の開いためがねをかけたり、目を細めると見えるからといって、良くなったわけではありませんので注意が必要です。

凸レンズを通してみると、まわりのゆがみが強くなる。

またレンズには収差(しゅうさ)といって、像ができるときにボケやゆがみが起こってしまいます。一般的に周辺が強く中心が少ないので瞳孔が小さくなると収差が軽くなります。

近くを見ると瞳孔が小さくなるのは、
近くを見る → 調節により水晶体という眼の中のレンズがふくらみ近くにピントを合わせる → レンズが膨らむので収差が増える/距離が短いので被写界深度が浅くなる(ピントが合いにくくなる) → それらを打ち消すために瞳孔が小さくなる(よく見える)
実によくできています。

さて、他に瞳孔の大きさは中毒によって変わります。1995年にあった地下鉄サリン事件を思い出しますが、サリンなどの有機リン化合物は、副交感神経の伝達物質であるアセチルコリンを分解する酵素の働きを止めて、アセチルコリンが減らない→副交感神経が異常興奮→縮瞳、となります。

ヒトが死を迎える時、瞳孔は大きくなり散瞳し、光にも反応しなくなります。脳幹の中脳というところに瞳孔を小さくさせる指令を出す部分があります(Edinger-Westphal核)。この部分は近くを見るときや対光反射(眼に光を当てると縮瞳する反射)の時に働きますが、生命が終わりかけているとき、この核の働きがなくなり瞳孔が散瞳してしまいます。医師は死亡を確認する時、一般的に、呼吸、心拍の停止と、ペンライトを使って対光反射が消失していること、瞳孔が散瞳していることを確認します。

さて、暗い話になってしまいましたので、内容を変えて・・・

最初の話で、興奮すると瞳孔が大きくなると書きましたが、ホントかウソかこんな逸話があります。

宝石のヒスイの買取人は瞳孔の変化がわからないように色付きの眼鏡をしていたそうです。良質のヒスイをみると無意識のうちに気持ちがたかぶり瞳孔が大きくなってしまいます。売主がそれに気付き、高い値段を言われるのを防ぐためらしいです。

また、黒目を大きく見せるコンタクトレンズがあるのをご存知でしょうか。興奮すると瞳孔が大きくなることに似た反応で、人と向き合った時、相手に好意や好感を持つと瞳孔が大きくなることが知られています。

私たちはそれを無意識に感じ取っていますので、瞳孔が大きいと自分に好意を持ってくれている!→いい人だ!→魅力的な人だ!となるようです。

おもしろいですね。

つづく

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