2012年10月20日no.74 ドライアイについて(その5)「ドライアイの点眼薬・ジクアス」
ドライアイの治療薬は、長年にわたり人工涙液とヒアルロン酸の組み合わせが一般的で、人工涙液で足りない涙を補い、ヒアルロン酸で保持するものでした。もし、目から涙を出させる薬があれば、と誰もが考えていたと思いますが、なかなか実現されませんでした。しかし、2010年12月、結膜(白目)から水分及びムチン分泌を促進する作用を持つ点眼薬が発売になりました。それが、ジクアスです。
1.涙の3層構造
ジクアスの説明にはムチンについての理解が必要です。そもそも涙は、3層構造になっており、表面から油層、水層、粘液(ムチン)層と呼ばれております。油層は、文字通り油の層で、涙の表面にうすく広がり涙の蒸発を防ぎます。マイボーム腺というまぶたのキワにある部分から分泌されております。水層は、涙の大部分を占める水分の層で、涙の組成のうち水はおよそ98%といわれております。この水分は涙腺から分泌されておりますが、厳密には、目の上外側にある主涙腺と、結膜下にある副涙腺で作られております。最も内側を占めるのは粘液(ムチン)層で、糖蛋白を主成分とする粘性物質「ムチン」が貯まっております。このムチンは、涙の主成分である水と、本来は水とあまりなじまない疎水性の結膜(白目)や角膜(黒目)を結びつける大事な役割を担っております。
2.ムチン
あまり聞きなれない「ムチン」ですが、実はとても身近なものです。まず、納豆やオクラのネバネバの正体はこのムチンです。ツバメの巣やサトイモ、山芋、なめこや昆布などのぬめりもすべてムチンです。植物だけではなく、うなぎや魚の表面がぬるぬるしているのもムチンが原因で、そして私たち人も粘膜から分泌される粘液にほほぼ全てムチンが含まれております。まぶたの裏側や、口の中の内側は粘膜と呼ばれ常に粘液が出ており潤っています。この潤いにとても重要な役割を果たしております。
涙のムチンは、結膜の杯細胞(ゴブレット細胞)や角膜の表面の細胞(角膜上皮細胞)から分泌されております。特徴である高い粘性と保水性で涙を保持する働きをしております。目が乾かないために、とても重要な働きをしており、安定的なムチンの産生によって目の乾きを改善することができます。
3.ジクアス点眼液
このムチンを増やす効果がある点眼薬がジクアスです。働きは、白目の表面の結膜上皮に働いて水分を産生させることと、ムチンを産生する杯細胞に働いてムチンの分泌を増やすことです。ドライアイが涙の量と涙の質に問題が出ると説明しましたが、この両方を改善する効果が期待されております。実際、人に使った試験では、角結膜上皮障害(黒目や白目の傷)の改善や、涙の安定に効果があると報告されております。使い方は1日6回点眼で、今までのヒアルロン酸点眼と同じです。
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