院長の小話

2013年10月20日no.86 近視について(その3)学童期の近視

 今回の小話では、近視になるメカニズムを説明しようと思います。また、ヒヨコにめがねをかけて近視の進行を調べた興味深い論文についてもご紹介します。

(1)なぜ、学童期に近視になるのか
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 人間は生まれたときは大人に比べてとても小さい体です。眼も同じように小さいため、眼の直径も小さく、眼の最も前にある角膜と後ろにある網膜の距離(眼軸長)も短いです。眼の大きさは、生後2歳頃までは急速に大きくなり、その後10歳頃まで徐々に大きくなっていきます。眼に入った光がきちんと網膜で像を結ぶのが正視、手前で像を結ぶのが近視と説明しましたが、眼が大きくなるということは網膜の位置が後ろに後退していくことになり、何もしないでいるとどんどん近視が進んでいきます。これを防ぐために光を屈折させる強さを変えることで、像を結ぶ位置を後ろへ移動させて近視を打ち消します。具体的には、眼の前の方にある水晶体というレンズの屈折力が8歳頃までに徐々に減少することで像を後ろの方へ移動させて、成長の変化を打ち消すようにできています。これによって、生まれた時に眼が小さく軽い遠視だった状態が、8歳頃にちょうど良い正視になるといわれています。しかし、水晶体の打ち消し作用が止まる8歳以降に、さらに眼の長さが奥に伸びていくと、その分、像が網膜の手前で結ばれるようになり、近視が進行していきます。実際に8歳位から近視のお子さんが増えていくことと一致すると思います。

 では、体がとても成長して体が大きい人は皆近視になるのかというと、そうではなく、眼の大きさはある程度で一定になりますので、問題となるのは眼軸長の伸長といって、眼が前後に大きく伸びることです。少しわかりにくい説明で申し訳ありません。

(2)ヒヨコの実験

 1978年にWallmanらがたいへん興味深い発表をしました。それはヒヨコの眼に凹レンズをつけると、眼軸長が伸びて近視化するというものです。逆に凸レンズをつけると遠視化しました。これはどういうことでしょう?凹レンズは近視を矯正するときに使うレンズですので、例えて言うのなら「近視がなかったヒヨコが近視用のめがねをかけていると、近視になった。同様に、遠視用のめがねをかけていると遠視になった」ということに置き換えるとイメージしやすいと思います。なぜこのようなことが生じたかの説明としては、正視のヒヨコが凹レンズ(近視用のめがね)をかけると、像は網膜よりも後ろで結ぶことになり、網膜にはボケが生じます。そのボケを感知して、きちんとみえるように眼軸長を伸ばし近視化したのではないかと考えられています。凹レンズの場合は反対で、網膜には手前で像を結んだときにできるボケがうつり、眼はそれを感知して眼軸長を縮めて、像を網膜で結ばせようとしたということです。ここで重要なのは、そのようなボケを感知しているだけではなく、その違い(手前のボケなのか、後ろなのか)を感知している点です。

 そこで、眼軸長が長くなって近視化するのが問題なので、眼軸長が短くなる作用がうまく出せれば、近視が治るのではないかと考えられました。どういうことかというと、近視の人が少し弱めのめがねをかけると、矯正が不十分なため近視が残り、網膜よりも手前で像が結ばれます。もし、人間も先のヒヨコと同じように、きちんと見えるようになる方向に軸長が縮む変化が引き出せれば、近視が軽くなるということです。しかしながら、結果は霊長類であるサルではヒヨコ程効果が出なかったようです。人間でもやはりうまくいかないことが示唆されました。 

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